最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)579号 判決 1954年10月29日
福島県石城郡小名浜町字君ケ塚五〇番地
上告人
中西茂彌
右訴訟代理人弁護士
宗宮信次
池田浩一
茨城県多賀郡関南村大字神岡上六一一番地
被上告人
菊地誠
右当事者間の貸金請求事件について、仙台高等裁判所が昭和二七年五月一九日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人宗宮信次、同池田浩一の上告理由は、本判決末尾添付の別紙記載のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
右上告理由第二点について。
民訴三七七条二項にいう第一審における口頭弁論の結果とは、第一審にあらわれた一切の訴訟資料を指すものであつて、証拠調の結果をも含むと解すべく、控訴審において右口頭弁論の結果の陳述があれば、第一審に提出された証拠はすべて控訴審に顕出があつたものとされ、控訴審裁判所は当然これを採つて事実認定の資料となし得るものと解するのが相当である。これを本件について見るに、原審における所論口頭弁論調書には「原判決事実摘示のとおり原審口頭弁論の結果を陳述し」と記載されて居り、特に証拠調の結果を除外した形跡は認められないから、原審が第一審において提出された所論の書証を採つて事実認定の資料としたのは何等違法でなく、論旨は理由がない。
その他の論旨は、すべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号いずれにも該当せず、また同法にいう「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)
昭和二七年(オ)第五七九号
上告人 中西茂彌
被上告人 菊地誠
上告代理人宗宮信次、同池田浩一の上告理由
第一点 原判決はその理由において「被控訴人(被告、上告人)は、前記四通の小切手は被控訴人が控訴人(原告、被上告人)から昭和二十二年中に手数料、前利息を加算した金七万三千円の借用証書を差入れて金五万八千円を借り受けたのに対する月二割の割合による復利として計算した利息の支払を強要され交付したものであるが、被控訴人は控訴人に対し、既に昭和二十二年十一月十八日から昭和二十四年五月十日までの間に十四回に亘り合計金二十四万千五百円を支払つたのに、右小切手を返してくれなかつたものであると主張するが、成立に争いのない甲第六号証の記載及び当審証人高槻繁男、橋本フクの各証言並に当審における被控訴本人尋問の結果を綜合すると、控訴人は被控訴人から、訴外高槻繁男の仲介により、昭和二十二年十月八日頃漁船修理費用として金七万二千円を返済期日昭和二十三年十二月末日と定めて利息の定りなく借受け、ついで昭和二十三年九月十日頃さんま漁業の資金として金五万円をさんまの漁獲があるまでとの約束で借受け、本訴金員はこれ等とは全然関係なく、控訴人が新造船の資金二百万円を復興金庫から借受けるについての運動資金として借受けたもので、さきの二口、即ち金七万二千円については昭和二十二年十一月十七日から昭和二十四年四月十八日までの間に七回に亘り、また、金五万円については昭和二十三年十二月三日各返済したが、本訴金員については全然返済していないことが認められる。右認定に反する原審証人中西康雄の証言及び乙第一乃至三号証の記載は採用し得ないし、他に右認定を動すに足りる証拠はないから控訴人の主張は理由がない」と判示している。併し乍ら、右原判決挙示に係る被控訴本人の尋問は本件に於て行われたることなく記録を査するも被控訴本人訊問の結果なるものあることなし。されば原判決は虚無の証拠に依拠したもので、理由不備の違法あるを以て破毀を免れない。
第二点 原判決は当事者の引用しない証拠を判断の資料に供した違法がある。すなわち記録に拠れば、被控訴人(上告人)は始終原審口頭弁論に欠席し、その為め第一審において被控訴人側が提出した証拠を原審で援用しなかつた。又記録を査するに、控訴人側(被上告人)も亦、第一審において提出の甲第一乃至七号証を原審で引用した旨の記載はない。由来、控訴審における訴訟手続は第一審の訴訟手続の続行ではあるけれども、判決は直接審理主義の下口頭弁論に基き為すべきものであるから、第一審で提出せられた証拠であつても控訴審で援用されざる証拠は判断の資料に供すべきものでない。然るに原判決を見るに、「証拠として控訴代理人は、甲第一乃至七号証を提出し(中略)、乙第一乃至三号証の成立は不知、同第四、五号証の成立は認めると述べ、被控訴人は乙第一乃至五号証を提出し、原審証人中西康雄の証言を援用し、甲第五号証の成立は否認する、その他の甲号各証の成立は認めると述べた」と事実を摘示し、その理由に於て「よつて按ずるに成立に争いのない甲第一乃至四号証(中略)、甲第五号証の記載並に当審証人高槻繁男、橋本フクの各証言を綜合するに昭和二十三年十月一日控訴人は被控訴人に対し金十三万五千円を、内金五万円については同年同月二十五日、内金八万五千円については同年十一月三十日に返済を受ける約定の下に貸与して、これが返済を確保するため振出人被控訴人支払人株式会社常陽銀行小名浜出張所なる昭和二十三年十月二十五日附金額五万円及び昭和二十三年十一月三十日附金額金八万五千円の持参人払小切手各一通を受取つたこと、更に昭和二十四年三月十日金十万円を内金五万円については同年四月十五日、内金五万円については同月三十日返済を受ける定めで貸付け、これが返済を確保するため振出人被控訴人、支払人株式会社常陽銀行小名浜出張所なる昭和二十四年四月十五日附金額五万円及び同月三十日附金額五万円の持参人払小切手各一通を受領したこと、控訴人は右小切手をそれぞれその期日に支払を請求した結果、被控訴人は控訴人に対し、前記各小切手金額をそれぞれ振出日附の日から年一割の損害金を附して同年五月十日までに支払うことを約したことが認められる」と判示して、当事者が原審において引用しなかつた第一審提出の書証に依拠して控訴人(被上告人)の請求を認容したのは訴訟手続を誤り、延いて理由に不備ある違法の判決である。尤も原審口頭弁論調書によれば、控訴代理人が「原判決(第一審判決)事実摘示の通り原審(第一審)口頭弁論の結果を陳述し」とあるも(記録一二六丁参照)、事実摘示とは事実の主張に止まり、証拠調の結果を包含せざるものと解しなければならない。殊に出頭せざる相手方が第一審において提出した証拠の如きは、更に之を提出するや否やの自由裁量は相手方に委ぬべきものであつて、之を利害を異にする反対の当事者をしてその引用を為さしむべきでない。又書証の如きは何れの当事者が第一審で提出したものであるとに拘わらず、提出したその当事者をしてその原本を提出せしめ、裁判官が親しく之を実見し、直接審理の下その信憑力を判断すべきものである。従つて、民事訴訟法三七七条第二項にいわゆる「当事者は第一審に於ける口頭弁論の結果を陳述することを要す」とあり、前記原審口頭弁論調書に「原判決事実摘示の通り原審(第一審)口頭弁論の結果を陳述し」とあるは、第一審提出の証拠を含まないと解すべきである。要するに原判決は訴訟手続に違背して当事者の援用せざる証拠に依拠したもので、口頭弁論主義、直接審理主義に違反し、延いて理由不備の違法に陥れるものである。
第三点 原判決には審理不尽の違法がある。すなわち原判決に依れば、当事者双方の事実上の主張は(中略)、第一審判決の事実摘示と同一なりとして第一審判決を引用している。しかし第一審判決書を見るに、同判決書に上告人(被告)の主張として掲ぐるところは何を意味するか、全く要領を得ざるところが尠くない。先ず第一にその事実摘示の冒頭に
(一) 「被告は昭和二十二年七月頃、訴外横山得雄から金六万円を借用したところ、同人の所有船が沈没した為返金することとし、之に充てる為高槻勇の仲介で原告から金五万八千円を借受けた当時、原告から額面七万三千円の借用証を入れさせられた。これは、一割五分の手数料と月一割五分の利子を含めたと称して借用証をとられたもので、実際の貸借関係は五万八千円きり成立しないものである。被告は原告から右五万八千円きり借用しないのであるが、其の後原告は利子を月二割と計算して、之を複利として加算して不当な要求をしてきたから、八万五千円の先日付小切手を貰いたいとの事で、被告は之を信じ昭和二十三年十一月二十日付の小切手を渡した(甲第二号証)。其の後昭和二十三年十一月二十六日原告がきて、歯医者に行くのに金を持たずにきたからとて金二千円をくれとて二千円を被告から渡した。その後昭和二十三年十二月三日都合が悪かつたので、被告は五万円を八万五千円の内金に入金した。次で十二月十五日原告の代理として請求にきた弟に金五千円を入金した。又、三月十六日原告本人に金五千円を支払つた。三月十八日原告は取りに来て被告から一万五千円の入金をうけた。そこで被告は八万五千円の小切手(甲第一一号証)を貰いたいと申した処、原告は忘れてきたから前のと一諸に持つてくるからと称して返戻せぬのである」とある。
之に依れば上告人が被上告人に高利支払の為として徴取せられた八万五千円の小切手金弁済として上告人の被上告人に交付した金員は、右摘示に依れば二千円、五万円、五千円、五千円、一万五千円計七万七千円であるからその弁済ありし故を以て八万五千円の小切手(甲二号証)の返還を求めたという上告人の主張は不合理である。この事実摘示は、第一審において上告人側の陳述した昭和二五年七月八日附準備書面の(五)の記載を摘記したものと認められるが、同準備書面によれば「三月十八日原告(被上告人)は取りにきて被告から二万五千円の入金をうけた。そこで被告は八万五千円の小切手(甲第二号証)を貰いたいと申したところ」とあつて、第一審判決の事実摘示が壱万五千円とあるに対し、準備書面は二万五千円とあつて壱万円相違する為め、前述「歯医者にいくのに金を持たずにきたからといわれて渡した二千円」を内金と認めずしてこれを除外するときは準備書面によれば合計八万五千円の入金となり、八万五千円の小切手(甲第二号証)の返還を求めたという上告人(被控訴人)の主張が合理的となるのである。従つて原審はこの点において瑕疵ある不合理な第一審の事実上の主張をその儘引用したものであり審理不尽の譏を免れない。なおまた摘示として記載されたる「原告は忘れてきたから、前のと一緒に持つて呉るからと称して返戻せぬのである」とある。その前のとは、どの小切手を意味するか、摘示を反覆読み返しても、その意味全く不明である。かかる意味不明の事実摘示を採つて引用した原判決は審理不尽と謂わざるを得ない。
(二) 次に原判決の引用する第一審判決の事実摘示に
「被告は昭和二十四年四月十五日原告が催促にきた時、五万円の手形を書いて貰いたい、被告は右貸金に付元利金に対し、昭和二十二年十一月十八日金一万五千円、同年十二月十七日金五千円、同年十二月二十日金一万円、昭和二十三年二月二十八日金七千五百円、同年四月十五日金一万円、同年五月五日金七千円、同年五月二十一日金一万円を支払い、殆んど実際の借入分丈は支払つて了つたものである」とあるも、「被告は昭和二十四年四月十五日原告が催促に来た時、五万円の手形を書いて貰いたい、被告は右貸金に付元利金に対し、昭和二十二年十一月十八日金一万五千円云々」の記載は何を意味するか、意味全く不明である。或いは五万円の手形を書いて貰いたいと求められて被告が書き、之に対し金員を支払つた意味にも解し得ざるに非ざるも、それにしては記載されある入金の合計額は六万四千五百円となり、小切手額面五万円を超過する。結局摘示事実の意味は諒解出来難きものである。原審がかかる不可解な第一審判決の事実摘示を採つて之を引用したのは畢竟審理不尽というの外ない。一面から見れば、原審は上告人の主張の意味を弁えずして審理判決し、漫然上告人の主張を排斥したことにもなるのであるから、原判決は審理不尽とともに理由不備の違法もありと謂わねばならぬ。
第四点 原判決はその理由において「被控訴人は、前記四通の小切手は、被控訴人が控訴人から昭和二十二年中に手数料、前利息を加算した金七万三千円の借用証書を差入れて金五万八千を借り受けたのに対する月二割の割合による復利として計算した利息の支払を強要され交付したものであるが、被控訴人は控訴人に対し既に昭和二十二年十一月十八日から昭和二十四年五月十日までの間に十四回に亘り合計金二十四万千五百円を支払つたのに、右小切手を返してくれなかつたものであると主張するが、成立に争いのない甲第六号証の記載及び当審証人高槻繁男、橋本フクの各証言並に当審における被控訴本人尋問の結果を綜合すると、控訴人は被控訴人から訴外高槻繁男の仲介により昭和二十二年十月八日頃漁船修理費用として金七万二千円を返済期日昭和二十三年十二月末日と定めて利息の定めなく借受け、ついで昭和二十三年九月十日頃さんま漁業の資金として金五万円をさんまの漁獲があるまでとの約束で借受け、本訴金員はこれ等とは全然関係なく、控訴人が新造船の資金二百万円を復興金庫から借受けるについての運動資金として借受けたもので、さきの二口、即ち金七万二千円については昭和二十二年十一月十七日から昭和二十四年四月十八日までの間に七回に亘り、また、金五万円については昭和二十三年十二月三日各返済したが、本訴金員については全然返済していないことが認められる。右認定に反する原審証人中西康雄の証言及び乙第一乃至三号証の記載は採用し得ないし、他に右認定を動すに足りる証拠はないから控訴人の主張は理由がない」と判示している。
しかし乍ら第一審における証人中西康雄の証言により成立を認め得る乙第一乃至三号証の帳簿を検討すれば、上告人の主張に寸分相違の無きことが確め得られる。これ等帳簿は、上告人の支出帳、金銭出納簿、覚帳であるが、日附を追つて順次に記帳せられあり、後日の加除訂正を為し得ざる様式であつて、事実有りの儘の事実が入念に記載され、この帳簿は動かすべからざる信憑力を有すると認められるものである。そしてこれ等乙第一、二、三号証を仔細に見れば、全く上告人の主張、すなわち第一審において昭和二五年七月八日附準備書面により上告人が主張した事実に相違無きことを確知し得るのである。先ず同準備書面第一記載の「横山得雄より借用の六万円返金の為に被上告人の弟高槻勇の仲介で被上告人より五万八千円借りたものである」ことは乙第二号証(金銭出納簿)の一〇月9日(記録の写に一〇月5日とあるは一〇月九日の誤記)高槻様(被上告人の弟)58、000円収入、同日横山様支払60、000円の記載によつて明瞭である。次ぎに右準備書面第二項記載の昭和二二年十一月十八日金一万五千円、同年十二月十七日金五千円、同年十二月二十日(二十日とあるは十七日の誤記)一万円、昭和二十三年二月二十八日金七千五百円、同年四月十五日金一万円、同年五月五日金七千円、同年五月二十一日金一万円は、乙第三号証の十一月十八日金壱万五千円也渡高槻様(被上告人の弟)、十二月十七日金五千円入金渡高槻、同日金壱万円也渡菊地(被上告人)、廿八日金七千五百円也渡し菊地、四月十五日金壱万円使へ康(証人中西康雄の意味)、菊地へ、五月五日七千円菊地へ、五月二十一日壱万円也入金菊地とあると正に符合する。次に、前記準備書面第三項記載の上告人の実弟中西康雄を以て五万円を返金した事実は、乙第一号証「支出簿」の一〇月25日(記録添附の乙第一号証証拠写に一一月とあるは一〇月の誤記)、菊地様へ50、000、00とある記載と符合する。又前記準備書面第五項記載の昭和二三年十一月二十六日二千円、同年十二月三日五万円、同月十五日五千円、昭和二四年三月廿六日五千円、同年三月十八日二万五千円支払の事実並に同準備書面第六項記載の昭和二四年五月十日五万円支払の各事実は、乙第一号証を入念に見て、之と引合せるときは成る程と合点が行き、上告人主張に相違無きことが知られるのである。而して原判決の引用する第一審判決の事実摘示に、上告人(被告)の主張として記載されおるところは畢竟前記準備書面の記載と同一であつて、第一審判決の事実摘示は準備書面の記載を転載したものと認めらるるを以て結局上告人の主張とする合計二十四万千五百円也の入金が上告人より被上告人に対しなされたことは、上告人提出の乙第一、二、三号証に依り動かすべからざるものとなるのである。
そこで上告人はこの二十四万千五百円也を五万八千円の元金と、その高利の為に重復して取られた四通の本件小切手の為にこの入金を為したと一審以来主張しているのであるが、かりに原判決説明の如く七万二千円(支払期日昭和二三年十二月末日)と、五万円(昭和二三年九月十日頃成立)の貸金があつて之は弁済せられたが、この外に本件四通の小切手による貸金が別に行われたと仮定しても、二十四万千五百円入金があれば七万二千円と五万円の支払に充当してなお余剰十一万九千五百円を生じ、之は尠くとも本件四通の小切手、すなわち、本訴請求金額に入金とならざるべからざる筋合となるのである。原判決は被上告人の主張を認める証拠として甲第五号証、甲第六号証を引用するが、之等証書は控訴(被上告)本人の供述によれば、被上告人が認め、上告人の署名を採つたものである。殊に甲第六号証の文言は、借金を弁済した借主が貸主に後日異議故障を申さざる旨の覚書であるが、かかる異常な書証を被上告人が取りたる裏には、何かたくらむところありしことが想見せられる。何れにしても甲五、六号証は金貸が本文を書いて、小名浜の漁場育ちの直情軽卒な債務者たる上告人をして署名せしめたものである。かかる書類は容易く採用すべきものでない。その他原判決援用の人証は被上告人本人の供述、被上告人の弟高槻繁男の供述、被上告人の内縁の妻の橋本フクの供述であつて、孰れも十分な信憑力あるものと言えないもの許りである。殊に最も本件に於て疑問とせられることは、被上告人が高利貸であることが記録上(乙第五号証)認め得ることである。原判決によれば、高利貸たる被上告人が特に懇親であつたとも認められない上告人に無利息で期限後の損害金僅か年一割を以て六口の金融したという、普通あり得べからざる事実を認定したことに帰するのである。そしてまた諒解し難きことは、本件四通の小切手が何れも期日に銀行に振込まれざりしことと、又期日に支払わない上告人に対し何故に次ぎ次ぎと被上告人が小切手を以て金を貸したかの点も怪まざるを得ないのである。
なお又昭和二十三年十月一日金十三万五千円の現金を被上告人が上告人に貸すに当り、同日金五万円の小切手(甲第一号証)を上告人より取り、三日程してから八万五千円の小切手(甲第二号証)を上告人より受取つたという説明(記録一六九、一七〇丁、被上告人の供述参照)にも、割切れないものがある。小切手を割引いて現金を貸す場合、現金を先きに渡して数日後に小切手を取るということは普通あり得ないことである。
惟うに原審は、上告人が口頭弁論に出頭せざる儘に、被上告人側のみの一方に聴き、一審以来上告人の主張せる主張の何たるかを審究するところなく、主張不明の儘漫然と第一審判決の事実摘示を引用するに止め(前第三点参照)、又上告人が第一審で提出した乙第一、二、三号証についても之を篤と検討するところなく、啻、単に「右認定に反する原審証人中西康雄の証言及び乙第一乃至三号証の記載は採用し得ないし、他に右認定を動すに足りる証拠はないから控訴人の主張は理由がない」と断じたのは審理不尽若くは理由不備の違法あるものである。上告人が原審の口頭弁論に出廷せずして、その防禦を怠れる責は免れ得ざるも、之が為に高利金融者が既に支払を受けて手残りとなれる小切手――而かも月二割という高利支払の為めに軽卒な債務者、弱者たる債務者から重復してとつた小切手の請求を認めることは裁判の威信を保つ所以でない。原審の裁判は正義の裁判に非ざるを以て何卒原判決を破毀し、経済的弱者――当時不如意の為め原審に出頭する能わざりし上告人をして、再び原審に於て主張並に立証を尽し得る機会を与えられんことを伏て懇願する。
以上